ウスケバ・ロゴ ウスケバ・ロゴ ウイスキー造りに欠かすことの出来ない「水」そして「樹」。自然の力が生み出す「生命の水」。

2007年08月31日

ウイスキーとミステリーと映画

 もし1956年のグランド・ナショナル・レースで落馬していなかったら、それがきっかけで、「トップで引退せよ」とのアバゲニー卿の勧めに従っていなかったら、もしサンデー・イクスプレス紙から執筆の依頼がなかったら。 そして、もしメアリ・マーガレット・ブレンチリーと出会っていなかったら。
 ディック・フランシスが作家になっていなければ、世界はひとりの偉大なエンターテイメントの生み手を失うところでした。さらに、2000年に無二のパートナーのメアリに先立たれたとき、すでに80歳のフランシスに執筆の気力は残されていないだろうと、管理人も含めて、多くのファンが衷心と諦観のいり交じった思いでいたでしょう。
 だからこそ、6年もの年月を経て、しかも、あのシッド・ハーレーをひき連れて、フランシスがまさに「再起」したと知ったときは、驚きと喜びのあまり半べそをかいてしまいました。



 チャールズが九時半に電話をかけてきて、ジェニイの屋敷を出てクラブのバーへ行くので、用があればそっちへ電話してくれ、と言った。
「連絡をありがとうございます」私は言った。「しかし、その前にここへ寄って、数時間ばかりマリーナの世話をしてもらえませんか?」
 彼が躊躇するのが感じ取れた。
「埋め合わせになりそうな上質のグレンフィディックが一瓶あります」私は言った。「それに、昼食にはスモークサーモンの片身が冷蔵庫に入っています」
「三十五分で着くよ」彼は言った。


「敵手」まではフェイマス・グラウスが好みだったチャールズ・ロランド少将も、十年を経てシングルモルト派になったようです。  

2007年08月29日

ウイスキーとミステリーと映画

 バルヴェニーのつぎは、もちろんグレンフィディックです。ミステリーの世界でも絶大な人気を誇るシングルモルトですね。



「いまでも飲むのはスコッチ?」ようやく私が尋ねた。
「うん、相変わらずね」マークはそう言うと、私についてキッチンに入った。
棚からグレンフィディックをとると、私は半ば無意識に、昔やっていたとおりにマークの酒を作った。ジガー二杯分のウイスキー、氷、それに少量の炭酸水。


 この十年でもっとも多くの読者を得たミステリーは、パトリシア・コーンウェルの検屍官シリーズに間違いないでしょう。ちょっと確かめてみようと思い、本屋まで出かけて1作目の「検屍官」の奥付を見たのですが、あまりの版数にのけぞってしまいました。こりゃ講談社もだいぶ儲けたな。
 たしかに主人公が魅力的だしストーリーも新鮮で、作家、主人公、訳者、読者のすべてが女性という、いわゆる4Fミステリーのなかでも白眉のシリーズです。
 それに、4Fミステリーには珍しく、主人公が酒好きなのも個人的には好ましい。ウイスキーだけでも、スコッチ、バーボン、アイリッシュとなんでもいける口です。  

2007年08月27日

ウイスキーとミステリーと映画



 ウイスキーとミステリーがお好きな方なら、イアン・ランキンのリーバス警部のシリーズはよくご存知でしょう。ミステリーの主人公ではもっともモルト・ウイスキーを飲んでいる人物ですし、このブログでも何度も取りあげることになると思います。

 リーバスを見つめたまま、オークスはフラスクをアーチボルドに突き出したが、アーチボルドは首を振った。オークスはフラスクに口をつけ、茶色い液体が喉に滴り落ちるさまを見せびらかした。飲み込むときにごくりと大きな音を立てる。
「ほらな」とオークスは言った。「毒は入っていないだろ」再び酒を勧め、アーチボルドが今度は一口、口に含んだ。「ホテルのバーで詰めさせたんだ」と言い、オークスはフラスクを取り戻した。「あんたもどうだ、警部」
 リーバスはフラスクを受け取り、匂いを嗅いだ。たまらない匂いだったが、口をつけないで返した。
「〈バルヴェニ〉か」とリーバスは銘柄を当てた。「おれの勘がはずれていなかったら」
オークスが哄笑した。アーチボルドも苦笑した。


 フラスクには憧れますね。でも、パイプと同じように、ひとかどの大人と目されてようやく似合うアイテムのような気がして、まだ買うのをためらっています。  

2007年08月25日

ウイスキーとミステリーと映画

 ディザスター・ムービーの佳作、「デイ・アフター・トゥモロー」に、バルヴェニーが登場するのに気づかれた方は多いと思います。



 急速な気候変動のなか孤立したスコットランドの気象観測所で、バルヴェニーのダブルウッドを尽きた燃料の代用にしようとする部下を、イアン・ホルム扮する博士が「気は確かか?12年物のスコッチだぞ」とたしなめ、グラスを取り出します。
 シングルモルト、しかもバルヴェニーとあっては、彼の反応は当然でしょうね。  

2007年08月23日

ウイスキーとミステリーと映画

 スカイ島を舞台にしたミステリーには、海洋ミステリーの古典、ジェイムズ・M・スコットの「人魚とビスケット」があります。



 1951年、イギリスの新聞に数行の個人広告が掲載されたことをきっかけに、第二次世界大戦中にインド洋で遭難した四人の漂流者のあいだで起きた、ある事件の真相が明らかにされるというストーリーで、スカイ島の邸宅で後日談のスタイルで語られます。

 作中にタリスカーは登場しませんが、半世紀近くも経って復刊されたことにも頷ける、ミステリーのエッセンスが濃縮された名作です。  

2007年08月21日

ウイスキーとミステリーと映画



「ローカル・ヒーロー・夢に生きた男」は、石油プラントを建設するために、テキサス州ヒューストンからハイランドの海辺の小村に赴任した青年が、地元の人びととの交流を深めるにつれ、みずからの生きかたに疑問を抱き、計画を白紙に戻させようと奔走する物語です。
 スコットランドを舞台にした映画には明るい作品があまり多くないなかで、ファンタジックでコミカルなタッチで描かれ、観終えたあとほのぼのとした気分にさせてくれます。

 この「ローカル・ヒーロー・夢に生きた男」に、マカスキルという、42年と10年物のモルト・ウイスキーが登場します。
 架空のウイスキーかとも思いましたが、タリスカーの創業者、マクアスキル家にちなんだ本当にある銘柄なのかもしれません。もしそうなら、ぜひ飲んでみたいですね。  

2007年08月19日

ウイスキーとミステリーと映画



 武部好伸氏の著書「シネマティーニ」を読んで、ぜひ観てみたいと中古ビデオ屋を探し回ったのが、「ヒア・マイ・ソング」とこの「ストーミー・マンディ」でした。
 ニューカッスルが舞台のクライム・ストーリーで、キャストが揃っているしラストにひねりが効いていて、小品ながらも印象に残ります。とくにジャズ・クラブのオーナーを演じているスティングがいい。
「さらば青春の光」に少なからず影響を受けた世代なので、久しぶりに彼の姿を目にして、懐かしさとともになにかと考えさせられました。

 タリスカーは、ショーン・ビーンとメラニー・グリフィスがパブで飲んでいます。そのシーンの描写については、「シネマティーニ」にお任せしましょう。素人の文章など遠く及びませんから。無断だけれど。

 舞台は活気に乏しいイングランド北部の工業都市ニューカッスル。地元の青年ブレンダンが垢抜けしたアメリカ娘のケイトを誘ってパブへ入った。
「何にする?」
「そうね、モルト・ウイスキーを」
 彼女はなかなか酒を知っている。そこでブレンダンが髭面の若いバーテンダーにどんなボトルがあるか訊くと、ここぞとばかりまくし立てた。
「カーデュ、クライヌリッシュ、グレン・レーヴン、タリスカー……」
 つぎつぎと銘柄を並べ立て、愛嬌のある笑顔を浮かべた。
 一杯目は数種のシングル・モルトを混ぜたヴァッティド・モルトのグレン・レーヴン、二杯目がタリスカー。スカイ島産のコクのあるシングル・モルトで、舌の上で転がすとピート香がにわかに際立ってくる。わたしのお気に入りのウイスキーだ。マイルドなグレン・レーヴンで軽く舌を慣らし、そしてタリスカーでじっくり味わう。この選択、申し分ない。
 ふたりはどちらもストレートで味わった。タリスカーの強烈なパワーが効いたのか、たちまちふたりのこころに火がつき、実にいいムードをかもし出していた。ロマンスを引き立てる酒。つくづくモルト・ウイスキーは大人の酒だと実感する。


 入力していて無性にタリスカーが飲みたくなりました。手元にないのが残念です。  

2007年08月17日

ウイスキーとミステリーと映画

 

 おれは半パイントのビールを飲み終えるとスコッチに切り換えた。バーテンに尋ねると、かれがそれをすすめたのだ。おれの隣りにいた男もこちらに向いていった。
「タリスカーはそう悪くないですぜ」


「ゴールデン・キール」や「高い砦」「ハリケーン」など、多くの名作を生み出した英国の冒険小説の大家、デズモンド・バグリイが1977年に発表した「敵」のなかで、主人公がノーザン・ハイランドの港町、ウラプールの近郊にある漁村のパブに立ち寄ったさいに、バーテンダーに勧められてタリスカーを飲んでいます。

 タリスカーがミステリーに登場したのは、この「敵」が初めてではないでしょうか。
007映画のノヴェライズみたいな現実離れしたストーリーで、バグリイの作品のなかではあまり評価できませんが、タリスカー好きには注目の一作だと思います。  

2007年08月15日

ウイスキーとミステリーと映画

 007シリーズの20作目が「ダイ・アナザー・デイ」です。記念すべき一作とはいえ、個人的には、「黄金銃を持つ男」か「ムーンレイカー」とワーストを競うぐらい出来の悪い作品だと思います。
 お馬鹿なストーリーなのはいつものことなので笑って許すにしても、CGに頼りすぎて、いよいよリアリティが失われてしまったのはいただけない。デイムとタリスカーの威光をもってしても、その味気なさは埋めようがありません。
 同じころに製作された「オースティン・パワーズ」や「ジョニー・イングリッシュ」といったパロディのほうに、より007のエッセンスが感じられるというのも、ファンとしては切ないものがあります。
「カジノ・ロワイヤル」がシリアスなタッチになったのも、ちょっとやりすぎてしもうた、とMGMが反省したからでしょう。

 映画のカットは判りにくいアングルでしたが、スチール写真にはタリスカーのボトルがはっきりと映っています。
 前作の「ワールド・イズ・ノット・イナフ」でも、ジュディ・デンチ演じるMが執務室にキープしていました。ただ、ジェームズ・ボンドは両方ともタリスカーにありつけていません。
「ワールド・イズ・ノット・イナフ」では口をつけようとしたとたんに爆弾に邪魔をされるし、「ダイ・アナザー・デイ」では北朝鮮で拷問に遭い、ウイスキーの代わりに水をしこたま飲まされていました。

 ちなみに、タリスカーは映画よりもひと足早く小説に登場しています。
ジョン・ガードナーが1981年に発表した「メルトダウン作戦」がそうで、さらにつけ加えるなら、ボンド・マニアのあいだで評価の高い、「女王陛下の007」で初めてシングルモルトを飲んでいます。1969年の作品ですから、さすがは通人を気取るボンドだけに、流行にかなり先んじていますね。

  

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2007年08月13日

ウイスキーとミステリーと映画

 登場人物の嗜好が自分のそれと重なると、身近に感じて物語をより楽しめます。そういったキャラクターを読者に印象づける、ガジェット、小道具としてのウイスキーに詳しく言及したのは、「ミステリー風味グルメの世界」や「ミステリーがちょっぴり好きな友へ」などの著者、西尾忠久氏が初めてでしょう。その博識にはただただ敬服するばかりです。

 グレンモーレンジは、「ミステリーがちょっぴり好きな友へ」のなかで、サイモン・ブレットのチャールズ・パリス・シリーズの「殺しの演出教えます」とともに取りあげられています。

 

 ヒューゴが戸棚の扉を開くと、ウィスキーの瓶がきちんと並んでいた。銘柄は十二、三を数えた。ヒューゴは常々この陳列の豪華さを、誰にも好みのスコッチがあるという理由をつけて説明していたが、そのこと自体すでに彼が潜在的アルコール中毒者であることを裏づけていた。
 チャールズは断わる機会を逸し、優柔不断にグレンモランジーのモルトを選んだ。ヒューゴは気前よくグラスに二インチも注ぎ入れ、自分のにはジョニー・ウォーカーのブラックをついだ。


 作者のもう一方のシリーズのヒロイン、ミセス・パージェターともども好きなキャラクターなのですが、邦訳された作品が少ないうえに、すでにほとんどが絶版になっています。シリーズが完結したのならまだしも、大人の事情で別れざるをえないのというは寂しいかぎりですね。

 グレンモーレンジについてはいったん終わります。
つぎの銘柄をなににしようか考えたすえに、タリスカーにしました。ウイスキー・マガジンもタリスカーと「ダイ・アナザー・デイ」の特集を組んだぐらいですから。  

2007年08月10日

ウイスキーとミステリーと映画

 小説と映画の魅力のひとつに、訪れる機会のないであろう土地や、踏みいることを許されない社会を垣間見られる、というものがあります。



 デヴィッド・ハンドラーのスチュアート・ホーグ・シリーズは、処女作で一世を風靡したものの、いまはゴースト・ライターで食いつないでる作家が主人公の探偵小説で、「フィッツジェラルドをめざした男」でエドガー賞とアメリカン・ミステリー賞を受賞しています。
 どの作品もすぐに犯人の目星がついてしまうので、ミステリーとしての出来はそれほどでもないのですが、ショービズやマスコミなどのスノッブなセレブリティたちが軽妙なタッチで描かれ、そんな煌びやかな生活にとんと縁のない管理人には、謎解きのカタルシスよりも背景の描写のほうが興味深く、つぎはどんな業界が舞台になるのかと新作が楽しみでした。

 今年に入ってから僕は、シングル・モルトのスコッチをやっている。バーテンがいろいろ相談にのってくれて、結局年代もののグレンモーレンジを持ってきてくれることになった。

「真夜中のミュージシャン」はシリーズの3作目(邦訳されたのは2番目)で、伝説のロック・スターに伝記の執筆を頼まれて英国に渡ったホーギーが、やはり事件に巻きこまれてしまいます。
 それまではアメリカ人らしくジャック・ダニエルが好みだったホーギーは、この作品でシングルモルトに目覚めます。そのきっかけになったウイスキーがグレンモーレンジでした。

 このグレンモーレンジは、今まで飲んだどのスコッチと比べてみても、悪くはない。ひょっとしたらグレンリヴェットよりいけるぐらいだ。

 ホーギーのファッションのセンスはよく分からないけれど、ウイスキーについては同感です。  

2007年08月08日

ウイスキーとミステリーと映画

「一杯やるかい?」私はボトルを持ちあげながら、きいた。
「ろくなテキーラもないくせに」彼女はゆっくりとカウンターに近寄った。
「でも、グレンモランジーならもらうわ」




 ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドの正統な後継者、と称されているのがジェイムズ・クラムリーです。
「酔いどれの誇り」「さらば甘き口づけ」「友よ、戦いの果てに」「明日なき二人」と、いかにもハードボイルドな邦題が秀逸で、刹那を生きる男女の姿を情感をこめて描いています。ただ、プロの評価はそうじて高いのですが、読者のあいだでは好みの分かれる作家のようです。クラムリーが生んだ二人のキャラクターが、「卑しい街をゆく高潔な騎士」にはほど遠い造形だからでしょう。女性に支持されそうなタッチでもありませんし。

 さて、冒頭の台詞は、短編集の「娼婦たち」のなかに収められている「メキシコのリュウキュウガモ」からの一節で、同作は「友よ、戦いの果てに」のエチュードとして発表されました。
「友よ、戦いの果てに」のラストで、シュグルーがミロと乾杯している銘柄の明かされていないシングルモルトも、おそらくグレンモーレンジだと思います。